研究概要 |
筆者が共編者となり今年公刊された著書『開発協力の法と政治』において分担執筆した「開発協力と国際法」のなかで検討した「投資と開発途上国」の個所において、1990年代の10年間に締結された二国間投資条約(BIT)の数は1990年までに締結されたBITの数の4倍にものぼるほど急増してきていること、かつ、それらの条約においては国家と投資家との間の紛争を仲裁に付託することを規定することが一般的になっていることを明らかにした。実際にも、かかる紛争を仲裁特に投資紛争解決国際センター(ICSID)の仲裁に付託される紛争も急増しているが、その中でも特に、北米自由貿易協定(NAFTA)の投資に関する規定に基づいて国家と投資家との間の仲裁に付託される紛争がすでに多数存在している。そこで、本年度はNAFTAの外国投資に関する規定、外国投資の受入,待遇、保護、紛争の解決に関する規定の内容を分析するとともに、NAFTAの規定に「直接」基づいて国家-投資家間仲裁に付託されたケースを収集しその内容の検討を行ってきた。すでに、Metalclad対メキシコ、Robert Azinian対メキシコ、Waste Management対メキシコ、Mondev International対アメリカ、ADF Group対アメリカ、Ethyl Corpo.対カナダなどの代表的ケースについては仲裁判断を入手しその分析を行ってきた。かかる仲裁判断の分析をとおして、国内的救済手続に付託するか仲裁に付託するかの選択権を投資家に付与している規定の問題点とその適否、および、外国投資を規制する投資受入国の主権的権限が協定の解釈によってどの範囲まで制限されているかといった問題について論点を整理し検討を行ってきた。
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