研究概要 |
本研究の中心的課題は,今日の国際社会における国際裁判の多元化現象が国際法の統一的発展に及ぼす影響の検討である。今日,多種多様な国際裁判所が存在する。伝統的な個別方式の仲裁裁判所や国際司法裁判所のほかに,特定の分野に限定された専門的裁判所,たとえば国際海洋法裁判所,欧州人権裁判所,欧州共同体裁判所,国際刑事裁判所,WTO紛争パネル,投資紛争解決センターなど,多数にのぼる。これらの国際法廷は,相互に審級制等の関係をもつことなく個々に分立しているので,それぞれの裁判所が独自の判例を構築することによって国際法の統一的発展が阻害されたり,あるいは対立する判例の出現によって,いわゆる国際法の分断化を招来する恐れがあると指摘されている。 そこで本年度は,まずこの点をめぐる学説の調査を行った。すなわち,まず始めにこの危険を説く海外の論文を収集し,分析を行った。たとえば,ギョーム(G. Guillaume)の「国際的司法裁判制度の将来」やジェニングス(R. Y. Jennings)の「国際・国内裁判と国際法の発展」などである。他方、こうした見方に反論する研究もみられる。ボイル(A. E. Boyle)の「紛争解決と海洋法-分断化と管轄権問題」や,チャーニー(J. I. Charney)の「拡大する国際紛争解決システムの意味」などである。本年度はこうした対立する学説を比較検討することによって問題点を相当に明確化することができた。そこで来年度は,これを実証的に検討するために具体的な裁判例を調査することが必要となる。その際,検討対象となる裁判例の選別が重要な課題となる。
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