研究概要 |
本研究課題の調査として,昨年度は主として関連する海外の論文・文献の分析を行った。ただ,その調査は一部積み残したところがあったため,今年度は,まずそれらの若干の積み残した論文の調査を済ませた。(サールウェイ「国際司法機関の多様化」,スペリシー「国際裁判所の多元化」など。) そのうえで,本年度はさらに本問題に具体的にアプローチするため三つの主要な判例を検討した。一つは,同じ紛争でありながら二つの局面のうち,仮保金措置命令が国際海洋法裁判所によって出され,その本案決定が国際仲裁裁判所によって下された「みなみまぐろ事件」(2000年)であり,他の一つの判例は,それぞれ別の紛争であるが,同じ法的論点について二つの裁判所が異なる判断を下した事例,すなわち国際司法裁判所のニカラグア事件(1986年)とユーゴ国際刑事裁判所のタヂッチ事件(1999年)である。前者の事例は,国連海洋法条約の紛争解決規定(第15部)の解釈をめぐって二つの裁判所があい異なる判断を下したものであり,後者のケースは,国際刑事裁判所が国際司法裁判所の判例を別の事件でくつがえしたものである。 これらの事例研究からとりあえずいえることは,国際裁判制度の多元化によって国際法の不統一がもたらされる可能性があるということである。すなわち,一部の論者がいうように,国際裁判官は他の関連判例を十分に検討したうえで判決を下すので不統一・不一致は起りえないとする楽観論が必ずしも妥当しないことを示している。 平成16年度は本研究の最後の年となるので,上記の暫定的にえられた結論を,そのための対処策も含めて,さらに資料・判例によって補強したうえで原稿にまとめる予定である。
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