国際ビジネスを取り囲む不安定な法環境の中で、当事者達は契約というツールを複合的に組み合わることで、多様な私的秩序形成方法を進展させつつある。そうした進展を解明することを通じて、当事者の自律的行動としての契約と国家法のそれぞれが担う領域と役割とを、現実の国際商取引における実態を解明することによって分析することで、両者の調和の取れた最適関係を模索すると共に、国際的契約をより有益に用いるための統合的なガバナンス構造を解明することが、本研究の主要目的である。 国家法の役割において最重要の役割が、契約に関する義務の国家権力による強制であるとすれば、その中心的機能は各国の裁判所が担うことになる。そして、国際契約と裁判所とを繋ぐための基盤となる法理論が、国際裁判管轄に関する法的規律方法である。本年度は、こうした視点から、国際裁判管轄の規律方法をめぐる国際的状況を把握するために、イングランドを中心としたアングロ・コモンウェルス法圏における国際裁判管轄における近時の重要な進展を解明することを試み、成功した(業績欄参照)。その副次的な効果として、欧州連合における統一規則による国際裁判管轄規律の方法の実態と問題点を、かなり深く分析することも可能となった。また、わが国において最高裁判所が果敢に進展させてきた国際裁判管轄に関する「特段の事情」論とイングランド法の方法との間に、極めて強い問題意識の共通性が存在することも確認できた。 具体的には、1)国際ビジネスの当事者間で将来の紛争に備えて法廷地を予め合意する慣行は、最大限に尊重されるべきこと、2)合意が存在しない場合、総合的に考慮して、発生した紛争を最も適切に処理できると考えられる法廷地へと訴訟を誘導するよう、各国裁判所が自発的な工夫に基づく協調的対応を促進すること、の二点が現時点における国際裁判管轄における最善の法政策と考えられる。
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