本年度は、様々な側面において研究の進展があった。 (1)国際的な民事紛争における当事者自治の進展について、シンガポール国立大学の研究者2名を含む5名の国際取引法研究者によるワークショップを開催することができた。そこでの意見交換を通じて、当事者の合意による方法が大きな支配力を持つ現状が国際的に広く確認された。またその原因について踏み込んだ議論が行われた。 (2)紛争解決業務の民営化ともいえる国際商事仲裁のアジア地域における進展の実態について、香港及び中国において仲裁人として活躍するアメリカ人弁護士から、貴重な情報提供を受けた。 (3)契約が当事者間における余剰利益を求める相互利益に支えられた行動であるとする視点から契約を分析するOliver Williamsonの主導により展開されてきた「取引費用の経済学」におけるビジネス契約の経験的分析において豊かな成果を生み出していることを知った。そうした成果を吸収するための研究会を開催することで、その基礎的な理解を獲得することができた。 (4)ビジネス実務の経験者(総合商社出身)及び渉外弁護士(シンガポール及びマレーシア弁護士)との共同研究作業を通じて、相互に余剰利益を実現するための契約というツールを使いこなす人々の能力はますます高まってきており、その結果として様々な形態の複雑な国際契約をも何とか乗り切るようになってきていることが確認された。またそうした場面で、困難な交渉において触媒として機能することで契約をプロデュースすることによって、法律家が生み出す付加価値の実態が明らかになってきた。 上記研究活動の多くは、21世紀COEプログラムによって創設された神戸大学法学研究科の「市場化社会の法動態学研究センター」の研究活動と有機的に連携することでスケールアップされたものとなった。
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