本研究課題の最終年度に当たる本年度においては、研究成果をとりまとめた学会での報告と執筆活動が、作業の中心となった。概略は次の通りである。 1.法律家の役割の変容に対応するために、比較法や取引費用経済学などの学際的な視点を採り入れた法学教育の在り方を考えるシンポジウムにおいて次の提言を行った。社会的分業の進展による生産性の向上がもたらす価値の増加を個人のレベルで実現するための社会協力的な財の交換プロセスが契約であり、そうした経済的交換の制度たる契約を円滑に進める役割が契約法及び取引法律家に求められる。取引法律家は契約の円滑な進展がもたらし付加価値を実現する重要な役割を有する。 2.デビッド・キャンベル(ダラム大学教授)との共同研究活動を通じて、マクニールの関係的契約論において中心的役割を果たす「協力」という概念は、市場型契約においては「損害軽減義務」という形で現れていることが明らかになった。契約当事者が、締結後に自己に不利益であることが判明した契約から容易に離脱できる法環境を契約違反制度は実現しており、違反者の相手方は契約違反がもたらす不経済を最小限に抑えるため、適時に市場で代替的取引(代品購入等)を行う義務(損害軽減義務)を負う。つまり相手方が契約違反をした場面においてさえ、契約当事者は協力的に振る舞うべきことを法律は要請している。 3.知的財産の国際的な保護水準の向上は、発展途上国の産業社会にも利益をもたらす。知的財産保護の信頼性は、先進国企業が途上国企業と国際的技術移転を含んだ関係的契約を進展させるインセンティブを高めることを論証する学会報告(国際商取引学会)を行った。 4.国際契約における法廷地選択合意の国際的な尊重の意義を、法環境の複雑性の低減に向けた、法システム間の繰り返しゲーム的な協力構築の視点から解読する論説を公表した。
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