国際的なビジネスは、取引(法律学的に表現すれば契約)という当事者の合意を基盤とする社会経済的な制度を用いて展開される。国境が人々の社会経済活動にとって大きな障壁ではなくなり、各地域間における経済的な相互依存が深まる中で、国際ビジネスにおいて契約はより大規模で複雑なビジネス・プロジェクトを実現するための手段として、これまでとは異なった使われ方をするようになってきている。 本研究の初期の段階においては、法廷地選択や準拠法選択といった国際ビジネスに特有の取決に着目した分析を行ってきた。そして、そうした基盤のうえで、契約を締結する者の視点からは、より複雑な契約を制御する技術としての関係的契約と、そこにおける様々な契約規律の採り入れ方について、分析を進めてきた。また、それとは逆に規範の方向から見れば、そこにおいて国家が規範制定の主導権を握るといった状況は大きく後退し、様々な形の柔軟な規範形成がプライベートアクターをもまじえた多様な主体によって実現されるようになってきていることがわかった。 確かに国家の絶対的権力者としての地位は崩壊しつつある。しかし、国家の機能が完全に消滅するわけではなく、私的秩序形成を促進するためのゲームのルールの管理者として、極めて重要な働きが残っている。現時点でそれは既得権益を固定するナッシュ均衡を経済法などの規整によって打開し、水平的な秩序の基盤を確保する方向に向けられてきていることが明らかとなった。
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