本研究は、2001年9月11日の米同時多発テロ(9・11事件という)に示されたようなテロリズムの国際化と大量破壊・大量殺戮という現代的現象に直面して、かかる国際テロリズムを予防し、抑圧し、さらにテロ行為の責任者を処罰するための国際システムないしメカニズムを探ることを目的とするものである。もっともテロリズムの歴史は古く、1789年フランス大革命以来つねに政治の場で提起されてきた。本研究では、国際政治より国際法の側面から、とくに国際人道法や国際刑事法の側面からのアプローチを試みた。そのために、まず、テロリズムの法的定義について、テロ関連国際条約や国内法(仏刑法や米国愛国者法など)を手掛かりに検討した。その過程で、テロ組織のリスト化や国家テロの問題点を探った。 ついで、テロリズムの国際法的規制の観点から、9・11事件以後の主に米国による「反テロ戦争」政策の展開を検討した。具体的には、アフガニスタン戦争およびイラク戦争において敵対行為とテロ行為が交錯する中で、国際人道法がどのように適用されるかといった問題を分析した。たとえばアフガニスタンの場合、タリバンやアルカイダ兵士の法的地位(テロ容疑者か捕虜か)やグアンタナモ米キャンプにおける彼らの抑留の法的評価、イラク戦争では米・英の占領地域でのいわゆる「自爆テロ」などの人道法上あるいは国際刑事法上の犯罪性を探究した。また、テロ容疑者の国内裁判所または国際刑事裁判所での訴追の可能性の問題にも取り組んだ。 最後に、21世紀の国際社会におけるテロリズムの国際規制の方向性およびその問題性について、国際安全保障と国際人権・人道の観点から検討を加えた。
|