本研究から得た結論の概要を示せば、以下の通りである。 父母の有する親権は、子の福祉に適した範囲内でしか行使できない。子の利益に適しない代理権の行使は無権代理であり、無効である。そして、子の利益に適した代理権の範囲は、客観的に決定される。子の財産を純粋に減少させる贈与行為は、代理権の範囲外の行為であり、無効である。同様に、親権者の行うべき身上監護も子の利益に適した内容でなければならない。法定代理権の範囲が、子の状況に応じて客観的に決定されるのと同様に、身上監護の内容も客観的に決定される。未成年者に必要な医療を受けさせないことは、身上監護義務の違反である。未成年者に必要な医療行為を拒否する権利は、親権者にはない。 未成年者の医療における親権者の同意の意義も、同じ観点から理解しなければならない。意思無能力である未成年者に対する医療行為は、医療機関と親権者との不真正第三者のためにする契約と構成されるが、この契約の締結は、親権者の法定代理権の行使により行われる。契約締結が子の利益に適するかどうかは客観的に決定され、子に必要な医療契約を締結しない権利は、親権者には存しない。 医的侵襲を伴う医療行為に対しては親権者の同意が必要であるが、この同意は、親権者の身上監護義務の履行として行われる。身上監護義務の内容は客観的に決定されるから、未成年者に必要な医療行為には親権者は同意する義務がある。これを拒否する権利は親権者にはない。問題は、子の利益の内容であるが、親権者の意図とは関係なく、子の状況に応じて社会通念により客観的に決定するしかない。 以上のように、まず、医療行為の可否は、客観的な未成年者の必要性により決定され、これを法律行為(契約)として構成する必要性がある限りにおいて、法定代理が登場する。法律行為以外については、身上監護義務の履行の問題である。
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