研究概要 |
本年度は,土地を目的物とする担保制度の歴史的展開を,土地の私的所有権が日本資本主義の発達に対する貢献との関連で考察することが中心的課題であった。すなわち,開国後の日本は殖産興業政策の下で私的所有権は大いに利用されてきた。また,とりわけ戦後の高度成長期に経験した地価の高騰期では,約定の物的担保制度は実に華々しく活用されて日本資本主義の発展に寄与してきたが,その反面,土地所有権制度はこうした経済事情に連動して常に政治の下に置かれる形で作用してきた。しかし,この時代まで,土地所有権は国益という,比較的単一な制約に服してきたことも否定できない。ところが,バブル景気期には,地価の高騰によりこの担保制度は濫用された反面,この時期以降,多様な価値観の到来によって土地所有権に対する制約は複雑かつ多様ともなった。こうした時代的変遷を,各種の担保権制度の利用状況との関係で,法制史はもとより,法社会学の視座に基づいて実証的に分析するためことが肝要である。そこで,まず最初に,山林の入会事情という古典的な共同所有形態に着目し,いわゆる総有に見られる土地の支配関係上の特色を探った。続いて,等しく総有による支配として構成するのが望ましいのではないか,と考えられる環境利益(たとえば日照利益,景観利益など)やDNA情報について,これらが所有権の客体となり得るものかという観点から考察した。 このほか,本年度では裁判例の動向と学説の変遷に対する史的考察も本年度における研究の対象とした。すなわち,裁判例の動向は各時代における紛争事情を少なからず反映していると思量されるため,そこでは,約定担保に関する時代的背景のほか,法定担保の立法に即して生じた紛争の社会的背景にも注目した考察を行なった。
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