本研究は、ヨーロッパ、特にドイツ民法の大改革を参考にしながら、民事特別法によって変容を受けつつある現代民法の現状を分析し、民事特別法を統合した民法典再編を可能にするための基礎的研究を行うことを目的としている。こうした観点から、本年度においては、次の2つの作業を行った。 第1は、ドイツ債務法改正とヨーロッパ契約法をめぐる議論の検討である。ドイツでは、新債務法が2002年1月1日より施行されたが、その大きな柱の1つが民法典への民事特別法の統合であり、改正に際しては、統合の可否とそれによる民法原理の変容をめぐって激しい議論が展開された。本年度においては、こうした議論を中心に調査・分析を行い、ドイツにおける変化の特色とその含意を検討した。 第2は、日本における民事特別法の分析とその民法典への統合可能性に関する検討である。本年度では、(1)民事特別法として、消費者契約法のほか、特許法、信託法を取り上げ、民法典の規律との異同を整理・分析した上で、(2)民法典と民事特別法を統合するための理論的前提として、両者を架橋する基本理念の解明を試み、(3)私法の基本法として何をどこまで規律することが要請されるかという視点から、民法典への民事特別法の統合について具体的な検討を行った。 以上の検討(特に第2の部分)の一端を「11」記載の3つの論文にまとめて発表したほか、ドイツ債務法およびヨーロッパ契約法の検討を踏まえた日本の契約法に関する新たなテキストを発表することをめざし、講義案として『民法講義ノートIV債権各論(上)』(簡易製本版で全277頁)を作成した。
|