I、今年度は、大きく二つの方法で、フランスの遺産分割を研究してきた。1)第一に、遺産分割を実定法として研究している。そのための文献を収集し、遺産分割に関する法律をまとめつつある。相続財産の評価から、持戻し、遺留分の減殺などを含めて総合的に遺産分割に関する実定法を研究している。フランス法では、相続人に対する贈与や遺贈がなされた場合に関して、詳細な規定があり、それを欠いているわが国の民法典に有益な示唆があることが理解できた。 相続法の研究と並行し、フランス公証人制度の文献研究も行なっている。制度や活動領域、責任、社会とのかかわりなど、文献を通じて整理をしている。わが国の法制度のもとでも、公証人が同じような活動をなすことが可能かどうか、そのためには何が必要なのかという視点で、分析を行なっている。 2)第二に、パリ第二大学ミッシェル・グリマルディ教授の協力のもとに、フランスで公証人実務の予備調査を行なった。フランス公証人協会会長のレイニス氏とパリの事務所にて数回にわたり面会し、遺産分割における公証人関与の実務についての説明を受けた。当事者が全員参加し、基本的に法律に従った法定相続に基づき案を作成し、遺産分割を進めていく公証実務を、実際に体験した。持戻し、遺贈の扱い、遺留分の可能性をどのように手続きに反映するのか、また特定財産を巡って意見がまとまらない場合の手法など、伝統的な実務の手法を学んだ。このように、公証人が介入することにより、フランスでは遺産分割が比較的短期間に解決し、紛争の予防の機能を果たしていることに確信を得た。実際に、遺産分割で裁判になる事例は限られているという説明は今後の研究を進めるヒントを与えてくれた。 II、フランスでは公証実務は、都市によって遺産の種類にも相違があり、フランスの公証実務を知るためには、特徴となる地方都市での調査も必要であると助言を頂き、そのため研究の協力も承諾していただいた。今後、より客観性を高めるよう研究を進めていく予定である。 なお平成13年のパリでの調査をもとにした研究成果を、フランスの公証人制度ともからめて、平成15年6月に開催される公証法学会にて発表し、公証法学33号に公刊する予定である。
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