本年度は、相続法の公証実務を中心に研究を進めた。その中間報告として、日本公証法学会で、フランスにおける公証人と紛争予防と題して、2003年6月に研究発表を行った。学会の折に頂いた質問にも考慮を払い(たとえば、公証人の民事責任等)、公証法学33号に論文を発表した。 今年度の研究は大きく2部からなっている。フランスの公証制度の歴史的な発展と、現在の公証人の役割についてまず分析を試みた。これは主として、文献、資料を題材にした研究である。書面のもつ意味、書面の法的な効力、公証人の責務に関して、分析した。 第2部は、公証人の関与によって、どのように紛争が予防されているかに関して、相続法を題材に分析を行った。遺産分割が、公証人という法律の専門家が介入することによって、いかにスムーズに進んでいくのかを、実証的に分析した。また同時に、法解釈学的に、遺産分割、持戻、遺留分減殺が一連の作業として行われるように規定が準備されていることを明らかにした。この作業にあたって、フランスにて多くの公証人に面会し、具体的な計算の事例を題材にして、遺産分割に関する公証実務の説明を受けた。 また現在、公証実務と民法典の規定の適合性の関連性について、興味の対象が発展している。公証実務の確立は、単に公証人の実務から自然発生したものではなく、その背後に法的な伝統があり、フランス民法典編纂がはたした役割を無視することはできない。公証実務は民法典の編纂とも基本的に同じ流れであるという仮説を得た。その実証のために、フランス民法典に影響を与えたポティエの文献の分析を試みている。 このようにして、フランス公証法の予防的な役割を実証面と法解釈学的な二面において深め、日本法の視点での分析を加える来年度の研究につなげたい。
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