消費者に対する信用供与取引と、隣接しつつ、一部共通する問題として、偽造キャッシュカード問題がある。預金の払戻は、信用供与取引ではないが、偽造キャッシュカードに関する問題は、いったん基本的な取引関係をはじめた当事者間において、以後、どのような条件を充足し、また、手続を履践した者を本人として扱い、その者の行為の効果を、本人に帰属せしめることができるかに関する取り決めに関する問題である点で、偽造クレジットカードや、カードローン取引における偽造カード問題と共通するからである。 現在、急速に社会問題化している偽造キャッシュカード問題は、急速に進展する情報通信技術の革新により、キャッシュカードの偽造が容易にできることになったにもかかわらず、キャッシュカードをめぐる意識・セキュリティ技術が従来のまま据え置かれたため生じたものである。民法478条の債権の準占有者ルールにおける債務者の過失、および、債務不履行における債務者の帰責事由のいずれについても、金融機関に過失・帰責事由が認められない場合、一般民事法による規律では、偽造キャッシュカードを用いた無権限者による払戻によって生じた損失を、金融機関が負担するとする解決は容易ではない。しかし、比較法的には、金融機関が負担するとする例が、少なくない。キャッシュカードをめぐるセキュリティ技術を向上させ、それを、具体的に実装させることができる立場にあるのは、金融機関であり、利用者ではない。そうであれば、金融機関にインセンティブを与える趣旨で、民事責任ルールとは別個の解決として、金融機関の負担とする解決を原則とした考え方が探られるべきである。
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