主観的に広がりのある多数人を含む紛争(多数当事者紛争)について、一対一の個別訴訟を念頭に置いた従来の民事訴訟が、どのような機能を果たし、あるいは果たすべきかを明らかにすることを目的とした4年計画の研究の最終年度にあたる本年度は、昨年度までに引き続き以下のような研究を行うとともにそのとりまとめを行った。 1.まず、昨年度までに収集した資料の検討に引き続き、さらに関連する資料を収集したうえで国内の理論状況を確認する作業を行った。 その中で明らかになったことは、多数当事者が関与した裁判例の中には、主体の数だけ紛争があり、その複数の紛争がまとめて処理されるというよりは、紛争としては一つであり、利害関係者は多数いるが中心となって争ってきている者は限られている事例がかなりの数存在することであった。 したがって、訴訟としての規律は中心になっている者だけを当事者として扱い、ほかの者はその当事者に訴訟追行をゆだねているとみて手続を組み立てるほうが実体にあっていると考えるべきであることが明らかとなった。 以上の考察をもとに、紛争においてどのような地位についている者を訴訟主体にすべきか、多数いる利害関係者の内どの範囲の者を訴訟に取り込むのか、訴訟上どのような地位を与えればよいのか、あるいは判決の効力を受ける者に対して手続保障はどうあるべきかなどについての検討を加え、この分野の研究者が属する研究会などで報告を行い、また関連する報告が行われる研究会などに参加し、意見交換を積極的に行った。 以上を、現行法の枠内の解釈論で展開するならば、黙示の任意的訴訟担当と構成することが一番実態に合っているものと考え、この見解を基礎として研究のとりまとめを行った。 2.この一方で、比較法的研究も継続して行い、英米・独仏などの資料の収集を、引き続き行った。多数当事者をめぐる法制度が異なるので一概には言えないが、それでも各国の取り組みを検討すると、訴訟としての規律は中心になっている者だけを当事者として扱い、ほかの者はその当事者に訴訟追行をゆだねているとみて手続を組み立てるとする本研究の方向を裏付ける資料や裁判例が相当数存することが明らかとなった。 3.以上の考察に基づき、研究をまとめたうえで報告書を完成し、公表を行う。
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