研究概要 |
初年度たる今年度は、フランスの学者との交流を深め、かの地での議論の現状を正確に理解することから研究を始めた。たまたま、しばらくパリの地にて研究をする時を得たので、複数の研究者と意見を交換し、また多くの学会に出席することができた。 その中でも、特筆すべきは、ヨーロッパ契約法とフランス法の対応という、今日的なテーマで開催された学会である。パリのソー大学にて2003年1月30,31日に行われた学会であって、そこにおいては、伝統的なフランス法概念が今後どのような試練を経なければならないのかが正面から問題とされ、激しい議論が戦わされた。これは契約と給付の関係を見直す契機となるものであり、また一般にフランス法的な概念使用の作法とその変遷を考えるうえで非常に示唆に富むものであった。最新の議論を生で聞くことによって、またその折りに多くの学者と意見を交換することによって、多くを学ぶことができた。 執筆活動としては、注釈民法の「債権の目的」部分の執筆に集中した。その結果、ようやく原稿の提出にまで至った(現在校正中)。そこでは、まさに本研究テーマたる「給付」論を展開したわけであるが、執筆の過程で痛感したのは、判例の存在する、いわゆる論点には多くの研究があるが、それ以外の部分には基礎的な研究の蓄積が極めて乏しいことであった。これでは、わが国の民法学は脆弱さを抱えたまま彷徨うしかなくなってしまうだろう。本研究テーマは、直ちには役に立つものではないかもしれないが、いわば基礎の基礎に属する事柄であって、これを堅実に遂行することの重要性を再認識した次第である。また、注釈という性質上、問題を徹底的に掘り下げて検討することはできなかったが、今の時点で今後考究を深めるべき論点を網羅的にリストアップすることができたのも幸いだった。
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