研究概要 |
今年度においては、当面の課題であった『注釈民法』の「給付」の部分の執筆を終え、その刊行をみた(同新版(10)I44-323頁)。その「前注」を中心にして「給付概念」の再評価と再構成を試み、その重要性を改めて訴える内容となっている。とくに契約を捉える場合、「契約の解釈」という手法に対峙するとともにそれを補って、給付という債権の客観的側面に着眼することが非常に有益であることを示そうとした。たとえば、複数の契約の相互依存関係の規律については、リゾートマンション売買に関する最判平8・11・12民集50・10・2673があるが、その分析に際しては、給付という視点が大切だと説いた(同書55-58頁参照)。この点は、今後、複数の契約の相互依存関係を規律するルールを定立する際にも重要だと思う(「民法判例レビュー」判タ1144号予定参照)。 特別法においても給付概念は、最二小判平15・4・18判タ1127号93頁を無視できない。同判決は、いわゆる在籍出向に関して、使用者は労働者に対し、個別的同意なしに出向を命ずることができるとしたものだが、「債権の目的(=給付)の確定権が債権者にある」場合として位置づけることができ、給付概念が労働法と接点をもつ例として注目される(上掲書112-116頁参照)。なお、研究手法として念頭にある特別法分野との本格的な連携作業については、法科大学院開講準備のため未だ体勢が整っておらず、次年度の目標としたい。 本研究の特色である国際性に関しては、今年度もフランスとの連絡を密に取り、積極的におし進めた。学会発表に関しては、Le Code civil et les droits de l'Homme (2 et 4 decembre 2003,Grenoble)において、《Le Code civil et la liberte contractuelle : un des droits des hommes?》という表題で報告した。本研究とは直接に関係するものではなかったが、契約自由の限界はそのまま給付内容の制限として現れるわけで、ややもすれば技術的な法解釈レベルの検討に陥りがちな本研究課題を、契約自由とその規制というより広い視野の下において検討する必要性を痛感させた。今後の研究の方向性につき、一定の示唆を得たと考えている。
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