本研究は、人事訴訟の約9割を占める離婚訴訟とそれに付随する離婚効果事件(財産分与、養育費、子の監護、親権者指定等いわゆる乙類審判事項)の統一的処理を対象とし、この分野で先行的蓄積のあるドイツ法との比較考察を通じて、家庭裁判所での事件処理における実体規範と手続規範の融合的運用の重要性とわが国でのその可能性について検討したものである。2004年4月1日の人事訴訟の家庭裁判所への移管により、わが国でも離婚訴訟と離婚効果事件の一貫的な取扱いが可能となり、家庭裁判所の機能向上が期待されている。ただし、離婚調停や訴訟による結論の妥当性確保のためには、管轄の統一にとどまらない、離婚効果事件に関する実体的基準の確立と、離婚手続における離婚効果の同時的解決の担保が必要であり、これらは、離婚効果に関する裁判所の判断結果の予見可能性を当事者に保障するという意味も持つ。1970年代に離婚法の改革を遂行したドイツでは、離婚効果に関し(1)夫婦財産の清算、(2)年金権の清算、(3)配偶者の離婚後扶養、(4)婚姻住居と家具の取扱い、(5)子の監護、(6)面接交渉、(7)子の引渡し、(8)養育費の各事項につき、民法典等に詳細な実体的判断基準を置くとともに、結合制度の導入によって離婚と離婚効果の同時的処理を保障する枠組みを整えている。さらに同制度は、手続の複雑さに対する批判があるものの、離婚訴訟において当事者に離婚の結果を認識させ、裁判官が離婚に伴う全問題を把握した上で判断を下すことを可能にするとして積極的に評価されている。本研究者は、離婚後の当事者らの経済的・人的関係を確実に処理しようとするドイツ離婚法のこのような運用は、わが国における問題解決にとっても極めて有用であると考える。今後も本研究の成果をもとに、さらにこの分野における日独の研究者、法曹、関係諸機関との連携を深め、研究の深化と家事事件実務への貢献のため努力したいと考えている。
|