(1)本年度は、まず研究テーマの基礎となる労働法の新たなパラダイム変換をめぐる研究を進展させ、これを年俸制を中心とする成果主義・能力主義賃金をめぐる問題に引きつけて検討し「公正評価義務の意義・射程と限界(一)、(二)、(三・完)」という論文成果を執筆した。具体的には、従来の生存権理念から使用者の社会的権力制限による労働者の自己決定・自立の確保へ向けてパラダイム変換を行うべきであるとの一応の成果を得た。併せて、パラダイム論についての英・仏の比較法研究を行い、その成果を東北労働法研究会で発表し、議論・検討を行った。(2)また、上掲の「公正評価義務の意義・射程と限界(一)、(二)、(三・完)」という論文では併せて、公正評価義務という雇用社会・労働市場の変化に伴って重要視されるようになってきた労働契約上の重要問題、賃金という重要な労働条件をめぐる大きな変化、変化した雇用社会・労働市場が要求する新たな立法的対応・法的装置の必要性、労働市場のセーフティーネットの張り替えの必要性、労働組合の機能の変化と従業員代表システム(労働者の集団的利益代表システム)をめぐる立法端的検討、新たな紛争解決手続の整備に向けての課題、年俸制と労働者の自立的な働き方をめぐる問題、労働者のキャリア展開と企業の職場環境配慮義務の問題など研究課題のテーマに含まれる広範な諸問題を検討した。加えて、この論文では、法的見地からみて公正な賃金とは何かを追求し、労働者が正社員かどうかにこだわりなく雇用形態を自由に選択しうる自己決定の基盤作りのための前提作業も行った。(3)そして、労働者の新たな雇用形態・働き方と紛争処理の変化、雇用不安と労働市場の整備などの問題に関する調査として、東京都産業労働局労働部、東京管理職ユニオン、女性ユニオン東京に対し聞き取り調査を行い、法理論と現実との架橋をはかった。(4)最後に、判例を素材にした「私傷病と労務受領拒否」、「仮眠時間の労働時間性と使用者の時間外・深夜割増賃金支払義務」を執筆し、職種や就労形態の多様化に伴う雇用社会の現代的問題に対する紛争解決のあり方の一例を探った。
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