本年度においては、雇用政策研究の基礎的作業を課題としたが、その作業の中で、現代では、雇用・就業形態の多様化が進展する中で、雇用政策ないし労働法制の適用範囲自体が問われていることが明らかになった。すなわち、従来、雇用政策または労働法制の対象外とされてきた自営的な労務供給者などに対する保護のあり方が国際的な議論となってきたのである。研究者は、この問題が、本研究自体の対象を画定するうえで重要な課題であると考えた。狭い意味での雇用政策ではなく、社会保障制度や税制などを視野にいれた総合的な雇用政策を考えるうえでは、今後、労働者に類似する状態に置かれている多様な就労者の問題を無視することはできないと考えたからである。そこで、本年度の研究の重点をこの問題の解明にあてることにした。この結果、得られた知見は、労働法制を従来のように雇用労働者の法に限定することなく、多様な就労者の多様なニーズに対応させて、労働法制自体を再編することが必要であるということであった。そこでは、無償労働であろうと有償労働であろうと就労という事実が問題とされる領域、自常業と雇用労働者とに共通領域、従属的な自営業者と雇用労働者とに共通する領域および雇用労働者に固有に領域というように区分を設けて、それぞれに必要な保護を提供する仕組みを構想することを提案している。まだ、具体的な提案に至らず、初歩的な成果にとどまるが、現時点での到達点を、「雇用類似の労務供給契約と労働法に関する覚書」(下井隆史先生古希記念論文集、信山社、2003年3月刊)として公表している。なお、「雇用類似の労務供給契約と労働法」(労働法律旬報1536号、2002年9月)は、本研究のエッセンスを紹介するものである。
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