本研究では、第1に、新たなマネーロンダリング規制の動きの研究を行った。マネーロンダリング規制の最近の動きとしては、(1)疑わしい取引の届出義務の主体の拡大、(2)電子取引への対応、(3)テロ資金防止への取り組みなどがあるが、特に、この点で重要なのは、FATF(資金洗浄に関する金融活動作業部会)の活動である。FATFが改訂した40の勧告は、弁護士・公証人等の職業専門家についても、疑わしい取引の届出義務を課しており、同様の動きは、EU指令や各国の立法にも見られる。この問題は、弁護士等の守秘義務との関係で慎重な検討が必要であり、この点についての研究を行った。もう一つ重要な動きとしては、2000年の国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約があり、わが国でもその批准のための法律案が国会に提出されたので、この法律案についても検討を行った。第2は、マネーロンダリング規制を担保するための制裁についての研究である。疑わしい取引の届出義務については、金融機関の役割が大きく、届出件数は近年急増している。しかし、届出を怠った場合の制裁については、わが国では、業務改善命令、業務停止命令等の行政処分しかなく、刑罰は用意されていない。しかし、業務停止命令は、顧客に対する影響が大きく、むしろ端的に行政制裁としての制裁金を科すことができるようにすべきであり、悪質な事例については、刑罰を科すことも検討されるべきである。また、マネーロンダリングに対する制裁としては、没収・追徴も重要であり、この点については、麻薬特例法および組織的犯罪処罰法によって大幅に整備されたが、被害者財産の調整規定などなお検討の必要な点があり、この点の検討を行った。第3に、マネーロンダリングは国際的に行われるため、国際刑法についての研究も行った。
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