いわゆる「裁判員制度」が導入されたもとでは、裁判員に分かりやすい審理を行ううえでも、またその過剰な負担を避けるうえでも、争点に集中した公判手続が行なわれる必要がある。この点では、公判前の準備手続のあり方が極めて重要な意味を持つ。 起訴後第1回公判前の準備手続については、従来、いわゆる「予断排除原則」との関係から、受訴裁判所が直接関与することには限界があると考えられてきた。しかし、憲法が要請する「公平な裁判所」との関係も含め、予断排除原則の規範内容は必ずしも明らかではなく、再検討の必要がある。 準備手続において、争点を明らかにするには、検察官側の主張・立証内容が明らかにされるばかりでなく、被告人側の主張が明らかにされる必要がある。しかし、被告人側にそのような要求をすることは、憲法上の自己負罪拒否権あるいは刑訴法上の黙秘権と抵触しないか、問題となる。争点明示が「自己に不利益な供述」にあたるか、また一定の主張について、主張すべき時期的限界を説けることが「強要」にあたるか、が解釈上問題となる。 十分な争点整理を行うためには証拠開示が必要である。この点で、従来の学説では、事前全面開示論のほか、主として米国の法制を参考に、証拠の類型ごとに開示の効用と弊害との衡量点を明らかにし、証拠開示判断の明確化を図ろうとするアプローチが存在した。これに対し、近時は、争点整理との関連をより強く意識しつつ、英国法制をも参考とした段階的証拠開示の考え方が現われている。証拠開示の効用と弊害を具体的に明らかにしつつ、あるべき制度を検討することが必要である。 準備手続のあり方については、2003年5月の日本刑法学会大会の共同研究において、報告を行う予定である。
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