いわゆる「裁判員制度」の成否の鍵となるのは、第1回公判期日前に裁判所が主宰して行う「新たな準備手続」、なかでも、そこにおける証拠開示と争点整理のあり方である。この点で、前年度において抽出した問題点について検討を加え、大要次のような結論を得た。 証拠開示については、いわゆる事前全面開示論も説かれているが、この考え方は、証拠開示に関わる様々な対立利益の調整に成功していない。「新たな準備手続」における証拠開示が争点整理を目的としたものであるとすれば、検察官が取調べ予定証拠を開示したうえ、被告人側から争点が明らかにされるのを待って、さらに争点関連証拠を開示するという段階的な証拠開示が考えられる。しかし、これに加えて、防御の準備にとって一般的に重要性が認められ、開示による弊害も少ない一定類型の証拠について、定型的な開示を要求することも、争点整理を目的とする証拠開示と十分に整合性を有する。「新たな準備手続」における証拠開示は、両者を組み合わせた制度設計が望まれる。 「新たな準備手続」において、被告人側に事前にその主張を明らかにするよう義務付けることは、「強要」にはあたらず、憲法上の自己負罪拒否権、刑訴法上の黙秘権と抵触することはない。また、「新たな準備手続」を公判裁判所が主宰することは、裁判所が検察官から一方的な説得を受けることまたはその外観を排除しようとした予断排除原則に反するものではない。 以上の点は、日本刑法学会大会の共同研究において報告を行い、「『新たな準備手続』と証拠開示」をまとめた。他に、「裁判員制度」の設計上最大の争点となった合議体の構成について検討を加え、「合議体の構成」をまとめた。
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