(1)アメリカ法におけるアレインメント制度においては、今日、有罪答弁に「事実的基礎(factual basis)」を要求する制度が一般的となっている。有罪答弁が被告人の自己決定的要素を含むものであるとしても、そこに事実的裏付けを要求することで、真実主義の要請をも満たそうとする制度といえる。 (2)裁判官による事実的基礎の審査がどのように実施され、どの程度厳密な有罪答弁の証拠的裏付けを吟味しているか。このような問題意識でアメリカ法を研究した日本の論文はほとんど見あたらない。アメリカ法を単純に被告人の自己決定に基づく「ラフ・ジャスティス」と評価して、これを拒否する態度は学問的な態度とはいえない。アメリカ法の実態とその理論を詳しく研究する必要がある。 (3)そこで、一方において、そもそもアメリカ法の刑事司法において「真実」がどのような地位を占めているのか、そこではドイツ法流の「実体的真実主義」という考え方は全く拒否されているのかを改めて研究してみる必要がある。「実体的真実主義の相対性」の論文では、この問題を考察し、そもそもデュー・プロセスという考え方も、また当事者主義という考え方も、決して真実主義とは無関係なものではないということを確認した。 (4)他方において、アレインメント手続の実際を観察してみることも必要であると考え、「有罪答弁の事実的基礎-ハワイ州の刑事実務を中心に-」では、有罪答弁の受理手続を観察した。そこでは、事実的基礎の確認は、被告人の権利保障のために真実の確認がなされているという新たな知見をえた。 (5)このような最新の理論動向を踏まえて、その他、「刑事訴訟の基礎理論」あるいは「訴因と争点」などの論文を発表した。
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