本年度は、まず、前年度から行っている諸外国の犯罪被害者法制について、引き続きフォローした。今年度は、諸外国に極めて大きな動きがあった。すなわち、犯罪被害者対策の先進国であるイギリスとアメリカで、被害者の基本的権利規定を盛り込んだ基本法が相次いで成立した。また、ドイツでも、刑事手続における被害者の権利向上のための改正法が制定された。そこで、これらに関する資料の収集と検討を、従来の研究成果と関連づけながら行った。 一方、外国の動きに呼応するかように、国内でも極めて大きな動きがあった。すなわち、長年にわたる被害者保護施策要求の1つの成果として、12月に、「犯罪被害者等基本法」が成立した。また、法務省の犯罪被害者のための施策研究会から、その調査・研究の中間取りまとめが公表され、とくに被害者の訴訟参加や損害回復制度について重要な課題の提示があった。そこで、これらに関する検討もあわせて行った。 そして、過年度の研究成果と以上の考察を踏まえ、研究成果の取りまとめにも着手した。具体的には、諸外国の犯罪被害者法制について分析・検討した結果を整理し、わが国の法解釈・運用・立法への示唆を抽出した。一方、わが国における被害者保護法制の問題点や運用実態の調査結果など整理・分析して、わが法の解釈・運用上の特徴や問題点を明らかにしようと努めた。さしあたりの結論としては、わが国では、刑事手続における被害者の保護や被害者への情報収集はかなりの程度実現されており問題も少なくなりつつあるが、被害者の手続参加や被害者の損害回復・救済については、なお喫緊の課題が山積していることが確認された。今後は、速やかに、わが国の被害者法制をめぐる解釈論・運用論・立法論のあるべき方向を検討した論文を逐次公刊示できるようにしたい。
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