平成15年度には14年度に収集した資料を分析し、その結果を「韓米地位協定の政治過程-駐屯軍地位協定をめぐる東アジア国際政治の一事例」というタイトルの論文としてまとめることができた。この研究は、未だ使われたことのない韓米両方の外交文書を使って同協定の締結過程を追跡したうえ、そこに歴史的分析を加えたものとしては最初の試みである。研究の結論としては、(1)地位協定締結をめぐる韓米間の交渉は、日米地位協定の締結や日韓国交正常化問題など、日米関係及び日韓関係における大きな出来事を背景としそれらの事件と影響を及ぼしあっていた。特に、韓国は日米地位協定の内容を研究し協定案策定に参照していた。また、日韓国交正常化の締結後、米国は韓国側に配慮する姿勢を示した。(2)李承晩政権期においては、弾圧的体制を敷く国内政治の必要性のみならず、米国からの介入と援助の削減を思いとどまらせる必要上、韓国側は過剰な緊張維持政策を採っていたが、これは地位協定締結を訴える韓国側には不利に働く要因になった。本研究者はこのような政策を堅持した韓国の当時の国家体制を「戦場国家」と命名し概念化した。(3)交渉の促進要因として、まず、国内的要因を挙げると、韓国の国内政治が民主化の動きを見せるとき、交渉は進展した。次に、韓国が「戦場国家」意識から離れ、経済発展を目指して国内体制の修正を図ったとき、米国は一定の配慮を示した。最後に、ベトナム派兵の事例で分かるように、東アジア地域のレベルにおいて、米国の地域戦略に韓国が自らの利益を積極的に重ねようとしたとき、米韓交渉は進展した。
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