本研究の目的は、国家のあり方についての議論はどのように進められるべきかという問いに答えることにあった。その際に、アメリカ合衆国の領土であるプエルトリコにおいて、「先鋭的民主主義」の実現のためにプエルトリコをアメリカ合衆国の州にすべきだという立場の議論を研究対象とし、この議論を中心にアメリカ合衆国という国のあり方、プエルトリコのあり方についてのさまざまな論者の見方を検討することを通じて問題に接近することを試みた。研究にあたっては、各種の関連資料の検討の他に、上記の「先鋭的民主主義」の州権論者とのインタビューも行った。 従来行われてきた国家のあり方についての議論には大きな問題が含まれている。それは歴史共同体の構成員としての「国民」ないしはなんらかの「民族集団(ethno-racial group)」への帰属者という、時に想像に基づいた人間のありようというものを、所与の国家社会の権利者としての「市民(citizen)」と区別せずに議論してきた点にある。上記のプエルトリコの先鋭的州権論者たちは「われわれはアメリカ人になる気は毛頭ないが、アメリカ合衆国市民としての権利と義務を100%行使することができるようになることを要求する」と述べている。そしてそれは、自らにとって、そしてプエルトリコ人にとって、さらに人類にとって先鋭的な民主主義を実現するために利することなのだと主張するのである。 人々が真に人間として公正な扱いを受けることができるような社会を実現すること、これが「使用言語」「民族」「人種」「性別」「階層」「教育」などの何であれ「出自」を超えた政治の目標となるべきであることを彼らの議論は示している。
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