平成14年度における研究は、欧州における安全保障問題の重要な課題として認職されるようになった「移民・難民問題」について、下位地域協力としてのユーロリージョンの果たす役割を分析し、国際シンポジウムで報告を行った。その中で明らかにしたことは、移民・難民問題は直接的に安全保障の脅威となる問題ではないが、受け入れ国にとっては、密輸や組織的な犯罪が懸念されるがゆえに、広義の安全保障上の脅威と捉えられている。東中欧諸国は、EUに隣接しており、さらにEU加盟を目前して、こうした移民・難民に対する国境における規制を強化するようにEUから働きかけを受けている。しかし現実には、従来型の移民ではなく、短距離・短期間の還流型の移民が急速に増加している。EUは東中欧諸国に対して、移民規制を強化するように要請する一方で、下位地域協力、特にユーロリージョンという組織を通じて国境地帯に在住する人たちが越境して働くことを奨励しており、越境労働者保護のために法的な整備も進めている。そこでは、経済的なメリットだけが問題となっているのではなく、地域に住む人たちの交流をすすめることによって地域の安定化を図ろうとする安全保障上の期待がある。 下位地域協力に対するこうした期待は、バルカン半島においてより明確にみられる。2年前にはヨーロッパで唯一ユーロリージョンの設置のなかったセルビアでもユーロリージョンの設置に動き出しており、さらにコソヴォのような国家が十分な統治を行えない地域では、政府に代わって南東欧安定化条約の一環として国連の暫定統治機構が下位地域協力の担い手として越境協力の協定を締結するに至っている。 以下のように、下位地域協力は経済的な協力関係にとどまらず、安全保障という領域を視野に入れて、欧州全土で展開しはじめているのである。
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