本年度は、第二次大戦下ヨーロッパにおけるジェノサイドの比較研究のため関係資料を網羅的に収集・整理し、データベース化を行うと同時に、以下3つの具体的な課題に取り組んだ。 まず、平時におけるジェノサイドの典型例として、1933年〜39年までのドイツにおける反ユダヤ人政策の展開をベルリン中央政府の反ユダヤ主義と地方自治体の社会福祉政策との関連において分析し、各地域のユダヤ人迫害政策が「公共の福利」と結びつけて進められた経緯を明らかにした。次に戦時において行われたジプシー(ロマ人)に対するジェノサイドをナチの人種衛生学の観点に着目して分析し、自然科学者とジェノサイドの関連を究明した。さらに、ナチ・ドイツ占領下のヨーロッパで行われたナチ・ドイツの手によるジェノサイドの事例(バビヤール渓谷大虐殺、リディチ村大虐殺、オラドゥール村大虐殺、ベオグラード大虐殺など)についての先行研究を分析し、史料を渉猟しながら、それぞれの発生から終結までのジェノサイド・メカニズムの比較検討に着手した。 当初予定していた海外渡航の代わりに、東京大学ドイツ・ヨーロッパ研究室(ドイツ学術交流会寄付講座)の支援を得て、平成14年7月には来日中のヴォルフ・グルナー氏(ベルリン工科大学反ユダヤ主義研究所研究員)を、また9月には同じく来日中のアクセル・シルト氏(ハンブルク大学歴史学教授)を招き、それぞれ比較ジェノサイド研究とナチズム研究の現状と課題について小規模なシンポジウムを行い、あわせて詳細な意見交換を行った。
|