本研究では比較ジェノサイド研究の理論的基盤づくりを目的に、第二次世界大戦下ヨーロッパにおけるさまざまな形態のジェノサイドを取り上げ、その事例研究を行った。まず、東欧・東南欧における「民族浄化」とジェノサイドの関係を分析し、無秩序な強制移住政策がユダヤ人大虐殺(ホロコースト)に帰着した過程を究明した。次に、東部戦線で展開したドイツ軍の治安戦がユダヤ人を標的とする大規模な殲滅戦に展開した過程を、日本軍が日中戦争下の中国で実行した掃討儘滅作戦との比較しつつ解明し、ナチ・ドイツによる「戦時ジェノサイド」の特質を明らかにした。さらに国際法に定義されたジェノサイド概念の限界と可能性を検討し、これを「狭義のジェノサイド」として捉えると同時に、「民族浄化」や実行犯が恣意的に敵集団を設定する事例については、「広義のジェノサイド」として考究することが研究上有効であることを明らかにした。 研究後半では、事例研究の対象を、20世紀最初のジェノサイドと目される、旧ドイツ領西南アフリカ(現ナミビア)でのドイツ帝国軍による現地住民ヘレロ、ナマに対するジェノサイド(1904年〜07年)、第一次世界大戦下オスマン帝国におけるアルメニア人虐殺、第二次世界大戦下のクロアチアにおけるセルビア人ジェノサイドを比較検討し、その共通性と歴史的な連関について、人種主義・総力戦・領土拡張・科学の諸観点から追究した。 本研究と並行して、平成日本学術振興会の新事業「人文社会科学振興プロジェクト研究事業」領域II「平和構築」「ジェノサイド研究の展開」の代表者として、日本におけるジェノサイド研究の拠点形成に取り組んだ。
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