研究概要 |
2002年度には都市における街道-居民委員会関係を研究の中心に据えたが、2003年度の研究は農村の郷鎮-村民委員会関係を中心に行った。1987年の試行法を経て1998年に制定された村民委員会組織法とその他の関連規定は、村民委員会の自立性を保障する多くの内容を含んでいる。ところが立法の趣旨や理念と現実との間には、多くは政治的理由によって乖離が生じる。今年度取り組んだのは、こうした乖離事例の収集とその帰納的整理であったと言える。多くの先行研究が提供する事例を検討して行き着いた暫定的な結論は、郷鎮と村民委員会との「指導関係」という公式の定義は、国家が余計な行政負担を避けながら、村レヴェルの協力をできるだけ効率よく確保するための擬制であるとの認識である。また、村民委員会と党支部との「領導関係」において、領導の範囲は極めて曖昧である。これは曖昧にしておくことで、それについての解釈権が党に留保され、解釈権が権力の源泉になるためであると考えられる。そのため領導の範囲は、将来的にも意図的に不明確なままにされることが予想される。もっとも、村務公開制や会計検査制度の普及、また村を法的に代表する印章管理規定の成立など、現場では党支部と村民委員会の職掌を明らかにする方向での改善が進みつつある。それは派生する現実に対し現場がこのように,対処せざるを得なくなっていることを意味しており、その限りでは党支部の権限を明確化することで党権力を制限する試みは始まっている。今年度は村民委員会・郷鎮政府・村共産党支部間の関係について、上述のような研究を中心にいくつかの認識・方法面での進捗をみた。当面はこれらの成果に基づいて2004年5月・6月に北京市の農村部で予定される村民委員会選挙等の分析を行っていきたい。 他方、都市部については、国会図書館所蔵の古地図なども参考にしながら、北京市の区制度・区域の変遷について若干の整理を試みたが、まだ整理の段階にとどまっている。次年度は県の区への変更も視野に入れながら、区・県レヴェルでの研究に重心を移していくこととしたい。 (今年度の最初の課題は2003年5月に予定されていた北京市の居民委員会委員選挙であった。選挙状況の調査と同時に、2000年秋から2001年後半にかけて行われた社区建設にともなう居民委員会の再編の得失を検討することが予定されていた。しかし残念ながら猛威をふるったSARSのために、選挙そのものが延期=中止になり、研究は大幅な調整を迫られた。居民委員会選挙と社区建設等の研究課題については他日を期することとしたい)。
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