中国の政府間関係を垂直的に考察すると、省・直轄市→県・区→郷・鎮という3つのレヴェルが取り出せる。鎮が都市化しているのに対し、郷は農村的要素を多分に含んでいる。郷・鎮以下の居民委員会・村民委員会は建前上は自治的組織とされながらも、現実には政府であり、居民委員会と村民委員会はそれぞれ都市的、農村的地域に置かれている。この状況は北京市においても変わらない。昨年度までにおいては、都市における街居制の成立過程とその社区への変容や、村民委員会選挙の実施にともなう村民委員会と党支部との権力関係など、基層行政に関する全般的な動向を、北京市を中心に検討してきた。今年度は聞き取り調査の機会を多く得たので、行政の日常業務における問題点などについて、より具体的に現状を理解することができた。党と政府を問わず存在する上級と下級の関係、財政上の自主権の問題、党と政府間の関係の問題、さらに司法との関係の問題などについて、街道弁事処(区政府の派出機構)の職員や、省級法院・中級法院・郷鎮級法院の裁判官・職員、さらにはこれらの分野と関連する中国の研究者に対してインタヴューを行い、多くの知見を得た。行政の現場の担当者は、失業率の増大や高齢化を前提としながらどのようにして健全な財務体質、より具体的には正当な税体系を作るかについて真剣な検討を続けていたし、裁判官とのインタヴューでは司法の独立をいかに確保するかという問題が真剣に考えられていたことが、特に印象的であった。また、裁判官に対するインタヴューにおいても、最終的に核心として意識されたのは党権力の問題であった。 残念ながら今年度は年度内に報告書をまとめることができなかったが、早い時期に司法体制との関連も視野に入れながら、北京市の政府間関係を対象に報告書をまとめたいと考えている。
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