(1)理論研究面と、(2)調査研究面で、次のような実績をあげた。 (1)19世紀の節用集、大雑書をひとまとまりの日用礼法指南書としてとらえ、その流布が日本社会の安定化、文明化とどのようにかかわったかについての理論化を試みた。さしあたり、両書が与えた情報が、多様な社会構成要素(含、環境)を共存させえたのは、五行説が生み出す分類範疇の多さと、個々の要素の質を問うよりも、それらの組み合わせの質を問う傾向が強かった点を主軸に据えている。また、東西の古典的文明観念の統合的再構築の可能性を発見、その概要を、ソウル大学校の科学史家、金永植教授と共催した国際シンポジウムで公表するとともに、本学の中国古典学者、小南一郎教授やオックスフォード大学のローマ史家Dr. Barbara Levickとの情報交換を開始した (2)対神仏礼法につき、国立国会図書館新城新蔵文庫の近世歴書類の写本調査、久米島家文書中の日選書調査をすすめた。前年度末に完成した論文『大雑書考-多神世界の媒介-』(京大『人文学報』86)では、19世紀の刊本の使用実態調査が中心であったが、今回は写本調査を主にした。 また、文字をめぐる礼法については、天理図書館、大阪府中之島図書館、同志社図書館などを訪問して、18世紀初頭以降の節用集編纂の基準となった槇島昭武の『書言字考節用集』への明清期漢字辞書の和刻出版の影響の検討や、雅語指南傾向が際立った山本序周編纂の18世紀節用集類の検討を進めた。さらに身体作法については、国会図書館亀田文庫を利用して、小笠原流諸礼の節用集付録への取り込みの時期の確定に努めた。 なお、大冊節用集、大雑書の、もと家蔵本につき、インターネットによる県立図書館レベルでの所蔵可能性を調査し、全都道府県調査対象資料リストを整備し始めるとともに、福島県、福岡県の各県立図書館をパイロット調査し、近年の県立図書館寄託家文書仮目録類を精査し、そこから発見された実物刊本の手沢相調査をも試みた。
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