本研究は、20世紀初頭の日露戦争に対して非戦論を唱え、後半生の沈黙のなかでも非戦論の思想を練り直した木下尚江について、その平和思想を全体的かっ全生涯的に考察しようとする。本年度は、木下の平和思想を考察するために不可欠な資料を収集し整理することに主眼を置いてきた。その資料は、主として書簡と草稿とからなる。 木下の書簡については、年来収集してきた書簡に加えて新たな書簡を発掘し、合計1000通弱を収集した。草稿については、早稲田大学大学院文学研究科に長く非公開のまま保管されてきた草稿のプリントの堤供を受けた。これまでそれらを整理し解読して、ファイルにする作業を続けてきた。 また、木下が1890年代に郷里松本の新聞『信陽日報』に執筆した記事などを求めて、日本近代文学館や松本市立図書館などで資料収集をした。木下の平和思想に影響を与えたヘロンの思想を解明するために、スタンフォード大学のフーヴァー研究所も訪問した。 そのような資料収集を通じて、木下の平和思想の特徴が明らかになってきた。それは、「野生の信徒」と自称した独特の信仰にもとづいて、トルストイ的な非暴力無抵抗主義の抵抗を実行しようとするものだった。その思想が20世紀初頭だけでなく、沈黙を続けた1910年代以後も保たれたことをさらに明らかにしたい。
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