改革開放以降の世界各地への中国人の国際移動は合法・非合法を問わず激増している。中国新移民の研究は今や世界の学会においても注目されるイシューになっている。本研究は非合法移民集団として知られている福建省北部福清地方の僑郷社会の変容と移民動向の現状について、国際移動と治安対策をキーワードに研究を行ったものである。 平成14年度から同16年度までの三年間、上記の課題に沿った研究活動を広範囲に推し進めた。二年間(平成14年度〜15年度)研究代表者を務めた徳岡仁氏が本務校退職のため、最終年度(平成16年度)は研究分担者小木が新しく研究代表者となり、研究テーマに沿った人的ネットワークの構築、国内外調査、資料収集、関連研究会、学会、国際シンポなどで、報告の聴取・コメント、意見交換などを中心に調査やまとめの研究活動を行った。なお、徳岡氏は研究協力者になった。平成14年度は福建省厦門、福州、福清、長楽などでの国際移動の実態調査を行い、平成15年度は国内の在日華僑や中国人新移民の居住地域や中国人犯罪の多発地域の県警国際捜査課、入国管理局、海上保安庁での聞き取り調査を行った。平成16年度は、シンガポールを訪問し、シンガポール国立大学、福建会館、国家図書館、書店などで資料収集を行う一方、華人の歴史研究で知られるシンガポール国立大学の劉宏副教授、聯合早報編集委員の欧清池博士などと新移民についての意見交換を行った。国内の調査においては、横浜、神戸、長崎のチャイナタウンや東京池袋に形成されつつある新チャイナタウンと中国新移民の調査を行い、来日中国人が福建省だけではなく、中国の東北地方を中心に拡大している実態を把握することができた。それは、日本における中国人犯罪グループの出身地の拡大分散からも見て取れる。 研究成果としては、前代表者の徳岡が現代中国学会や現代中国研究会における報告、小木が厦門大学南洋研究院でのワークショップにおいてシンガポールの中国新移民に関する研究報告などを行った。論文についは、徳岡が中国での治安と犯罪状況についての研究を推し進め、日本での犯罪がその延長線にあることを実証し、江沢民や胡錦涛政権下における治安政策の問題を明らかにした。小木は主に福州からの合法・非合法移民についての歴史的考察と現状分析を行い、併せて中国新移民、とりわけ世界へ展開する福州人移民の新しい動向やネットワークについて明らかにした。
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