本研究の目的は、主として1995年以降のフランスを対象に、社会政策および経済政策に関する政策選択肢をめぐる各アクターの戦略展開を、グローバル化と欧州統合の進展という構造的・制度的および戦略的要因との連関を視野に入れながら追うことを通して、比較政治学的分析の発展に貢献すると同時に、政策的対立軸の形成の可能性を探ることにある。本年度は、研究期間の最終年度であり、過年度の調査・研究結果をふまえながらまとめの作業を行い、その成果の一部を「フランスにおける福祉国家再編の『新しい政治』」と題する論文としてまとめ、平成17(2005)年3月に公表した。 本論文では、ポール・ピアソンによって提唱された福祉国家再編をめぐる新しい政治モデルを、1980〜90年代フランスにおける福祉国家改革の政治過程分析に適用し、主として社会政策をめぐる政策選択肢がどのように形成されつつあるかを考察した。ピアソンによれば、福祉削減の政治は福祉国家拡大期の政治、すなわち古い政治とは大きく異なる。大陸型福祉国家の中でもフランス福祉国家の再編は困難であるかのように見えたが、90年代に入ると変化の兆しが現れ、重要な革新を伴う再編の幕が切って落とされる。フランスの社会保障システムの諸制度がこの再編を構造化しており、その再編自体が経済的・社会的諸問題の配置、様々な社会的・経済的アクターとそれらが掲げる政策プログラム間のコンフリクトの帰結であると同時に、社会・経済政策をめぐる新しい亀裂・対立軸を条件づける。80年代については古い政治の仮説が説明力をもつが、90年代のフランスにおける福祉国家再編の政治過程をよりよく説明するのは新しい政治という視座であることを、本研究が取り上げた諸事実は示していることを本論文では明らかにした。 なお、当初予定していたフランス等における補充調査は、研究代表者の本務校における業務との関連で実施することができなかった。
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