本研究の目的は、1990年代の成熟した民主主義諸国における社会政策・経済政策をめぐる政策対立軸の形成に関する比較政治学的分析の発展に貢献することにある。 本研究は、ポール・ピアソンによって提唱された福祉国家再編をめぐる新しい政治モデルを、1980〜90年代のフランスにおける福祉国家改革の政治過程分析に適用した。ピアソンによれば、福祉削減の政治は福祉国家拡大期の政治、すなわち古い政治とは大きく異なる。大陸型福祉国家のなかでもフランス福祉国家の再編は困難であるかのようにみえたが、90年代には、重要な革新の幕が切って落とされる。フランスの社会保障システムの諸制度がこの革新を構造化する一方、その革新自体が経済的・社会的諸問題の配置、様々な社会的・経済的アクターとそれらが掲げる政策プログラム間のコンフリクトの帰結であると同時に、社会・経済政策をめぐる新しい亀裂・対立軸形成を条件づける。80年代については古い政治仮説が説明力をもつが、90年代フランスの福祉国家再編の政治過程をうまく説明するのは新しい政治という視座であることを、本研究が取り上げた諸事実は示している。 グローバル化や欧州統合の進展が、第二次世界大戦後の福祉国家と社会契約の変化に及ぼしたインパクトを軽視することはできないが、一国の社会政策・経済政策の収斂を直ちにもたらさないことを、本研究は示している。しかし、2000年3月にEUによって開始されたリスボン戦略-その目的は欧州経済の競争力増大、社会的統合の再建、欧州のガヴァナンス改革にある一の経験は、欧州統合と各国政治の展開の関係が非常に複雑で、社会政策・経済政策領域における各国ごとの対応が脱欧州化と同一視されかねないほどである。今後の究課題としては、このようなナショナル・リージョナル・グローバルの各レベル間の分岐と収斂の動態の比較政治学的考察をあげることができる。
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