研究代表者らがかねてから指摘してきたような公共事業の解体が予測を上回るペースで進み、ポスト公共事業社会の展望構築が一層の急務と認識されている。このなかで、研究代表者の五十嵐が中心となり「市民事業」というビジョンを提唱、共著として発表した(『市民事業』岩波書店、2003年)。本著はこれまで公共部門が担ってきた公益に係わる事業を、経済性を追及しながら市民が担う可能性を提示したもので、五十嵐などが進めてきた聞き取り調査の成果を事例としてまとめたものである。これを受けて本研究チームでは、事業分野別の提言を行うべく聞き取り調査を進め、景観形成や居住環境の整備を市民事業として行うための問題点の整理を行った。これらの先進的な活動を裏付ける理論研究として、古典的なセクター論からのアプローチについて、研究者間で議論を進めた。 また、海外調査としてEUを訪問、ドイツのハンブルク州政府やベルリンの市民団体などに対して、市民が政策決定に直接かかわる手法について聞き取り調査を行った。スウェーデンのカルマル市やヴェステルヴィーク・コミューンなどに対して聞き取り調査を行い、住宅建設や水道事業などの民営化や成功している第三セクターの実態について情報を収集した。 国内においては公共事業の解体が先進的に進む自治体として長野県に注目し、議会と首長の関係、予算編成の問題などについて分析を始めた。広島市における大幅な補助金削減についても先進的な試みとして捉え、その動向について情報収集を進めている。こうしたなかで、ポスト公共事業社会を担う市民セクターの育成やその手法などへの言及が必要との認識が深められ、次年度以降引き続き研究を進めることとなった。
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