本年度は日本にとって「戦後60周年」にあたり、なおかつ、天皇夫妻によるサイパン島訪問が急に発表されたことから、日本やミクロネシアにおいて、旧南洋群島関係者の諸団体や個人の活動が予期せざる形で活発化した。また主立った団体が本年を機に解散した。従って、調査は補足的にするとの実施計画を変更し、以下のような活動を行った。それは、既述のような諸団体や個人の活動への取材に多くの時間をあてたことであり、とくに、日本で最大の南洋群島引揚者団体である「南洋群島協会」の活動停止にあたるサイパン大会(但し、旅費は本研究費からは支出せず)、「全国パラオ小学校連合会」の解散にあたるパラオ大会を取材し、その後引き続き、関係者にインタビューを行ったことである。その際、拙稿「南洋群島引揚者の団体形成とその活動-日本敗戦直後を中心に」『県史料編集室紀要』(2005年)がインフォマントの記憶を確認するうえで有用なものとなり、さらなる情報を得ることができた。以上の研究計画の変更により、国内外での旅費が予算よりも多く必要となり、その分を物品費、謝金の予算から運用した。 また、本年度は上記のような状況が背景となったためか、個人史料や引揚者各団体が発行している機関誌を複写したり、手記や史料を入手する機会に恵まれ、これらは国内外の史料館、研究機関には存在しえない貴重なものであった。 一方、国内では沖縄県の地域史編纂者と移民編の編集について情報・意見交換を行い、報告者が『具志川市史』で携わった業績から現在に至る研究活動について総括、再検討する機会となり、また、地域史編纂者とは今後も交流を続けることを確認した。国外では、北マリアナ諸島サイパン島在住で、日本統治時代の史料収集に携わる研究者と交流し、本研究課題中に収集した資料などについて情報を提供し、今後、史料収集や研究交流を継続することを確認した。 以上のように、本年度は研究計画で想定した以上に聴き取り調査を実施したが、本研究課題で追究してきた内容に有益な調査活動となるものであった。加えて、戦後日本の引揚者による社会団体の活動や、彼らとミクロネシア住民たちの関わり合いの歩みの最終段階を取材・記録し得たという点で、次の研究課題を準備する作業ともなった。米軍占領下における占領政策と収容所など占領下での「植民地社会」のありようについては、主に日本人の聴き取り調査に終始したが、今後はミクロネシア住民からの聴き取りと、当該時期の公文書史料の収集をすすめ、本年度の調査とあわせて論文化を進めたい。
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