当研究は、これまで7年間にわたって実施してきた北アイルランドでの現地調査をもとに、北アイルランド紛争を具体的な事例として、武力行使をともなう紛争を予防、回避、そして平和的手段によって解決し、さらに長期的展望として、公正で共存可能な民族間関係を構築していくための原則と政策形成の方法を開発することを目的としている。平成15年度は、平成14年度に行った政治的社会的構造に関する実態的調査をもとに、ユニオニストとナショナリストの政治戦略の動向を分析するとともに、「和平合意」以後のカトリックおよびブロテスタント両コミュニティにおける対立開係の変容について分析を行った。このことを通じて、サニングデール・モデル、北アイルランドフォーラム・モデル、社会民主労働党モデル、ケネディーモデル、アングロ・アイリッンュモデル、1998年和平合意モデルなど、北アイルランドをめぐる和平プロセスの歴史的な展開とそこに示された紛争処理の方策案について比較再検射を行い、両コミュニティに対する影響を検討した。この研究を進めるにあたって、平成14年度と15年度にわたって、北アイルランド問題をめぐるナショナリストとユニオニストの政治戦略を整理し、2003年に実施された北アイルランド地方議会選挙の分析を行った。その結果、2002年以降の地方政府議会停止以降の政治状況と1998年の「ベルファスト和平合意」の持つ限界性を解明することができた。 平成15年度の研究では、平成14年度に行った北アイルランド・ベルファスト市のカトリック系居住地、ショート・ストランド地区、アードイン地区を訪問し、地元コミュニティ組織及び人権NGO関係者、プロテスタント系過激派による暴力事件ならびにカトリック系学校へのハラスメント事件の被害者に対して聞き取り調査のデータ整理とその分析に集中し、ロンドン大学のジョン ハッチンソン博士と研究状況と今後の研究計画について必要に応じて、各種通信手段を活用してデータの検証および意見交換を行った。平成15年度の研究成果については、平成16年度にジョン・ハッチンソン博士によるレビューを予定しており、これを受けて、学会誌および学部紀要に公表する予定である。当研究は継続的調査を必要とするがゆえに、平成16年度以降も現地調査を継続し、北アイルランドにおいて、政治団体や民間支持団体、地域の住民組織や人権団体に対する聞き取りなどの現地調査を行なう予定である。現在、関係するNGOおよび研究機関との間で、平成16年度の現地調査の研究スケジュールの調整を進めている。
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