本研究の目標は、ロシア経済の構造的特殊性を反映した計算可能一般均衡モデル(CGM)を作成することである。 平成15年度は、(1)資源(石油ガス)部門企業の企業データをCGMのフレームワークに再構成し、資源部門をCGMにビルトインすること、(2)家計貯蓄行動についての情報不足を補うためのアンケート調査を継続し、調査結果にもとづきロシア家計金融行動をモデル化することを主要課題とした。 (1)については、ロシアの代表的石油ガス企業の企業財務報告データを国民経済計算フレームワークに転換し、静態的・実物的CGMへ組み込む作業を完了した。分析結果から、石油ガス企業と非石油ガス企業の投資行動の類似性、石油ガス国内価格変化がマクロ経済に与えるインパクトの予想外の大きさなど、多くの新知見をえた。これらの成果は、和文、英文のディスカッション・ペーパー、論文としてすでに発表済みである。 (2)については、平成14年度におこなった2地域・計500世帯の調査結果の解析をすすめた。本アンケート調査では、現時点で重要な情報は、実際にどれだけ貯蓄をしているかより、貯蓄についての考え方、態度であるとの判断のもとで調査票を設計している。この調査方針は、同時に、ロシア家計が貯蓄行動についての具体的な情報の提供を極端に忌避することへの対策にもなっていた。調査から、ロシア家計が潜在的には貯蓄を重視し、「よいこと」と考えている、将来の特定の支出より不特定のリスクに対する予防的動機が強いなど、興味深い結果が得られた、ただし、調査票の工夫によってアンケート回収率は40%(各地域約100/250)近くになったものの、間接的な質問形式であっても所得額、貯蓄額などに関連した質問項目には答えないケースもなお多かった。そのため、各質問項目について平均家計プロフィールを反映するために必要な最低限1000サンプルを得るには、当初予定の最低2倍の調査規模が必要とわかった。ここで、当方の予算上の制約に加え、調査実施機関(ロシア科学アカデミー社会研究所)の金銭的問題も生じ、学術的検討に耐える規模まで調査を継続することは資金的に不可能となった。ロシア側もこれまでに無い情報を得られる調査として強い関心を示していただけに残念である。この調査結果については、共同研究者のシャシュノフ高等経済学教授が英語で報告書を学術振興会宛(外国人招へい研究者)提出している。また、上述の事情で調査結果からCGMに組み込める家計金融行動モデルを作成することはできなかったが、中村は、資金循環分析に調査結果を利用し、報告書(海外投融資情報財団)を執筆している。 最終年である次年度は、以上の理由から金融モデルの基礎部分は仮設的となるが、今年度までの成果にもとづき、最適経済成長モデルと各時点の静態的CGMを有機的に組み合わせる(DEPPAアルゴリズム)ことで、資源部門、資金循環、投資行動を組み込んだ長期経済成長予測用CGMの開発をおこなう。
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