資源産業と金融部門を明示的に含むロシア経済の一般均衡モデル作成を目的として研究をおこなった。 金融部門のモデル化については、ロシア家計貯蓄・消費行動の情報不足を補うためたロシア人研究者と共同でロシア国内2地域計500標本のパイロット・サーベイをおこなった。この調査から数多くの新たな情報が得られ、静態的実物的ロシアCGEモデルの作成が可能となった。ロシア側からも「従来にない情報を得られた」と評価された(研究協力者のロシア語雑誌論文あり)が、ロシア側の資金問題により本研究程度の資金規模では本格調査の実施は不可能となったことが残念である。 資源産業のモデル化については、企業財務データをモデルに取り入れることで、石油ガス産業企業行動をマクロ・モデルにビルト・インする作業を完了した。このモデルは、石油ガス国内価格統制の経済的意義の分析などを多くの成果をもたらし、その成果は『経済研究』、Post-Communist Economiesなどの内外のレフェリー付学術雑誌論文および他の論文、ディスカッション・ペーパーとして発表した。 以上の経緯で、ロシア経済の静態的実物的CGEモデルの開発はほぼ完了した。「ほぼ」という意味は、ロシア経済統計の時系列が短いためモデルのパラメータを高い信頼性をもって推定することがなお困難であることを指している。この問題の解決は時間の経過を待つしかない。一方、このモデルの開発は、汎用性の高い標準モデルとモデル作成技法の開発の点で満足できる結果をもたらし(例えば、中村「標準CGE作成マニュアル」スラブ研究センター)、環境・社会問題分析用モデル、金融的・動態的モデル、多地域リンク・モデルを構築するための方法的基礎を築くことができた。これらの方向へのモデルの拡張が今後の課題である。
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