平成15年度における研究の進捗状況は、連合王国の大英図書館およびケンブリッジ大学図書館で収集してきた19世紀中葉のセントラルバンキングとフリーバンキング論争に関する資料を査読し分析している。British LibraryやCambridge university libraryで収集した文献は、H.パーネル、マカロック、ベイリー、ギルバートらの一次文献である。今後は、さらに文献収集の範囲を拡大し、70年代のバジョットあたりまでの文献を収集するつもりである。 現在、論文の執筆を進めているが、その骨子は次のとおりである。 1825年の恐慌を契機としてイギリスの貨幣信用論者は2つに分裂した。ひとつは、イングランド銀行のような発券業務と銀行業務を遂行する「中央銀行」ではなく、D.リカードウの『国立銀行設立試案』を継承し発券業務だけを遂行するセントラルバンキング論者の台頭である。マカロック、ジョプリンなどがそれに属する。もうひとつは、パーネル、ベイリー、ギルバートの反イングランド銀行の立場に立つフリーバンキング論者である。問題は、この両者の間に論争がおき、過剰発行と何か、過剰発行の防止策、中央銀行の役割など多岐にわたって議論を展開していることである。またフリーバンキング論者は、地方銀行の株式銀行化を説き、金融システムの安定性を議論の俎上に載せている。以上の点を踏まえ、A.Arnonがいうように、フリーバンキング論者が30年代に衰退したのは、その理論的破綻によるものかどうかを目下検討している。
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