16年度は、昨年度に引き続いて、イギリス大英図書館とケンブリッジ大学図書館で資料収集をおこない、この調査にもとづいて、論文執筆に着手した。当初、論文の要点は、セントラルバンキングとフリーバンキング論争の論争過程のなかからフリーバンキング学派の理論構造を叙述するつもりでいたが、研究を進めるうちにこの論争の本質が景気循環過程における銀行信用の役割をめぐって行われていることに気づいた。そのため、論文の内容が論争を扱うことに関してはこれまでの計画どおりであるが、現在はいくぶん理論的色彩が濃い論文を目指している。 セントラルバンキング学派は、のちの通貨学派の論客につながる一群の人たちであるが、この学派の理論的基調は貨幣的景気理論の立場に立つ。この学派は外的な貨幣的ショックから経済循環が起動されると考えるが、フリーバンキング学派は基本的には実物的景気理論の立場に立つ。フリーバンキング学派はこの立場に立つから、銀行の役割は受動的であり、のちの銀行学派との接点が生まれてくる。ただし銀行の役割が受動的であるのは、地方銀行のみであり、中央銀行であるイングランド銀行が受動的ではないという点で、この学派の独自性がある。論点は、地方銀行の受動性と中央銀行の能動性との関係であり、ギルバートの言う「資本の前貸しと通貨の前貸し」という銀行信用の二面的性格とそれが景気循環に及ぼす影響である。またパーネルは、最初は、実物的景気理論を取っていたが、マカロックとの論争過程で貨幣的景気理論に傾斜する理由もフリーバンキング学派の「学派」としての性格を知る上で参考となるであろう。
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