本年度は、ロシアのコーポレート・ガバナンス改革の動態とその独自の像を検証し、改革の障害となる経済格差を実証研究した。また、ロシアとEU加盟候補国との比較研究を行った。現地調査として、2003年4月と2004年2月に、本研究課題にかかわる聞き取り調査および多数の研究者との意見交換をロシアで行い、2003年9月にエストニア、ラトヴィアで行った。第1に、企業制度改革の動態から、株主の権利保護と企業倫理原則の強化にかかわる措置が講じられ、アングロアメリカ型企業モデルの構築が指向されたこと、現実には所有の集中と経営者支配の強化と国家介入傾向の強さから企業の意思決定の変動は見られないこと、市場移行諸国全般に多国籍企業化が進行し、それが改革促進要因になっていることを実証的に明らかにした。とりわけ、ロシアのガバナンスの独自性は、「コーポレート・ロシア」として新しいビジョンを提起した。本研究は2003年10月「コーポレート・ロシア」経済理論学会第51回大会(武蔵大学)、12月財務省・財務総合研究所、2004年1月北海道大学での国際会議、3月日露共同シンポジウム「ロシアにおけるコーポレート・ガバナンス」内閣府・日本総合研究所で公表した。また、本課題に関しカナダで行われたAAASS国際学会に討論者として参加した。第2に、ガバナンス改革を抑制する要因として注目される経済格差の動態を検討し、市場経済移行においてインフォーマル制度が安定的に作動していることを解明した。本研究は、2003年10月「ロシアにおける経済格差」ロシア・東欧学会第32回大会共通論題で報告している。なお、本研究課題は、市場経済移行における制度・組織の構築に関わり、京都大学21世紀COEワークショップにおいて2003年12月、2004年3月に報告している。最後に、本研究課題に関連して、ロシア、ハンガリー、イギリス、アメリカの世界的研究者との研究交流を重ね、研究成果を公表している。
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