平成14年度は、論文(書評)1点のほか、共著書1点を刊行した。 書評「加茂川益郎著『国民国家と資本主義』(2000年)」は、資本主義の歴史的発展を通じて見た国民国家の特性と資本主義との関連の考察であり、いままで顧みられてこなかった国家と資本主義とのマクロ的ないし原理的な関連を超長期的な視野から捉えた好著であった。これに対し、筆者は一方では資本主義発展に関わる積極的・中心的アクターとしての国民国家という位置づけは肯定的に評価しつつ、国民国家を「福祉国家」的な本性を持つものとする点については、歴史的条件ないし制度的環境の差違を考慮すべきこと、国民国家はそれ自体で制度的多様性を持つものと捉えるべきことを主張した。 共著『東アジア市場経済多様性と可能性』は、筆者のような理論研究者と東アジアの実証研究者との共同によるプロジェクトの産物であり、東アジアの実地調査も含めて現実の中で理論を試し検証する成果である。筆者はこのプロジェクトを通じた実証・検証を通じて、「グローバル資本主義と経済の多様な<型>」(第一章)を執筆した。この章は、グローバル化によって世界的な経済の外形的同型化という著しい傾向があるが、他方で子細に検討すると経済を支える制度的・社会的構造は多様性を保ったままであり、同型化しているわけではないことを示した。これは、「経済当事者行動の制度論的基礎」という中心的研究課題に対し、いわば応用問題をなす領域であるとともに、新古典派的な合理的経済人の仮説に対する有力な反論の根拠を示す研究であったといえる。
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