1 今年度は予備調査の段階にとどまっていた『エジンバラ・レビュー』(以下ER)におけるマルサス像を中心に検討し、以下の諸点を解明できた。(1)1810年代前半までのERの記事では、人口に対するリジッドな意味での食糧先行説と賃金基金説との結合としてマルサス人口論が肯定的に評価されていること。ただし、記事のねらいが道徳的抑制の普及を論証しようとしており、情念不変論を強調するマルサスとは相違点もあることが確認できた。また、サムナーが登場するまでマルサス『人口論』あるいはペイリー「人口法則」が持っていた弁神論の側面はほとんど無視されてきたというのが従来の見解であったが、1810年の記事では試練と人口原理との結合というクリスチャン・ポリティカル・エコノミーの要素が含まれていることも明らかにできた。(2)1815年以降のERの記事では、穀物法批判の議論の中でマルサス人口論の受容の仕方が変容されていくことを解明した。例えば、ブキャナンによる1815年の記事は食糧先行説を緩和しながら穀物輸入が人口増加を帰結しないというロジックとなっているが、そこでは『人口論』後続版で次第に強調されていく困窮水準の上昇というマルサス人口論の一側面が明示的に利用されている。このように『人口論』解釈を変容させながら、主流となる経済学の議論の中に取り入れようとする系譜を確認することができた。この成果については現在、論文執筆中である。 2 昨年の検討対象であった『ブラックウッズ・マガジン』におけるマルサス像については、トーリー・マクロ・エコノミクスからのマルサス人口論批判を主要な考察対象とした紀要論文を公表した。
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