1 1800年代の『エジンバラ・レビュー』(ER)における人口論を検討し、次の諸点を確認した。農業を中心としたマルサスの人口成長モデルとは異なり、ERでは製造業と人口論とを結合させた経済成長論が展開されていること。また、人口増加を経由して製造業も需要創出効果を持つことが主張されていること。さらに、賃金ファンドの中に製造品を明確に組み入れていること。これらの諸点から、ERではマルサス人口論を肯定的に受け止めていたとするのが通説であるが、その内実には相違点が多いと結論づけることができる。また、1800年代のERはすでに農工バランス論の萌芽的な議論を含んでおり、1810年代以降にマルサスが主張していく議論を先取りしていたとも言いうる。他方、土地改良の可能性を高く評価することで、過剰蓄積を回避する役割という観点から急速な人口増大を肯定的に扱う記事もあり、穀物法論争期以前からマルサス人口論からの大幅な乖離が認められることも確認できた。 2 トーリー系と位置づけられている『ニュー・マンスリー・マガジン』では両面的なマルサス評価が存在することが確認できた。すなわち、増殖原理だけに人間が支配されていると想定した場合には「傾向法則」としてマルサス人口法則が妥当であるが、長期的な視点に立つ場合には人間の情念、特性が変容することで人口が増殖原理だけに支配されなくなるという論法でのマルサス擁護が行われている。こうした議論は後のベンサマイトらに見出せる人口論の受容パターンの萌芽的な形態と見ることができる。
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