本研究課題の目的は、1970年代後半以降に、経済学における主流・非主流を問わず新たな形での復活を遂げてきた多様な制度主義経済学の諸潮流を総括する作業を試み、経済学における新たな研究プログラムとしての制度経済学の理論的パースペクティブを明らかにすることにある。特に本研究では、経済主体の認知過程における情報、知識、そして学習に関わる諸問題を再度取り上げるとともに、企業組織というより具体的なレベルに特化して、企業組織における知識の調整と知識の学習とその蓄積に関するより進んだ考察と検討を行うことに焦点を絞った。まず2002年度においては、現代経済学における企業組織分析の2つの大きな流れである企業への契約論アプローチと能力論アプローチを取り上げ、これらの2つのアプローチの評価とその限界を明らかにし、そうした考察を踏まえた上でのよりリアリティのある企業論・企業組織分析に向けてのいくつかの提案を行った。続く2003年度には、制度経済学とは何か、あるいはいかに制度にアプローチすべきかという、より根源的な問いから発する作業を行うことに焦点を絞り込んだ。2つの作業を行した。第1は、今日の時点において、制度経済学とは何か、またその理論的なハードコアは何かを問う作業である。第2は、制度そのものの定義を問う、そして制度の概念化はどのようなものであるべきかを問う作業である。今日の時点での多様な制度経済学の存在が示唆するように、制度そのものの概念化においても多様な見方が存在する。とはいえ、ここでは、制度とは何かを考える上で共通に了解されるものは何かを確認し、もし見解の相違があるとすれば、それは何に由来するのか、またそれらを統合しうるような視点に立つことができるとすれば、どのようなアプローチが可能かを考察した。
|