研究概要 |
当初計画として,ウェッブ夫妻とベヴァレッジとの福祉政策思想の比較研究を行うことが本年度の課題であったが,若干の発展的修正を行った。第一の修正点として,研究計画策定時においては,国内の福祉政策思想を,「福祉の複合体」として捉え,それ自体の発展過程として描写し,比較することをねらいとしていたが,研究が進展するなかで各論者の国家に関する基本的な視座を確定しておくことなしに,「福祉の複合体」としての比較は困難であるとの見解に到達できた。第二の修正点として,研究計画策定時に見落としていた点として,第一次大戦期における各論者の戦時経済の平時利用への観点が,それぞれの福祉国家構想とその国家観の基本にあるという点に気づくことができた。関連資料をたどると,一次大戦終結期にウェッブ夫妻らが,本研究の比較対象主体である,ベヴァレッジ,ホブソンらの新自由主義者と連携して政策立案(「復興省」)に関与しており,その議事録・報告書が残っていると判明した。「政府公文書館」,「パーラメンタリー・ペーパー」などから,以下のことが分かった。現在,公営事業は,ブキャナンらの「公共選択論」により「非効率」と分析されており,テキスト・ブック的にはこれで正しい。だが,この当時の実務家の間では,イデオロギー中立的な経験的見地から,公営事業が市場よりも「効率的」という理解が広まっていた。ウェッブ夫妻もこれを共有し,その上で,戦後アメリカ行政学の発想を一部先取りして,「効率」達成の具体的制度構築(インセンティブとガヴァナンス)に知恵をしぼっていたことが分かった。特に,経済理論的な基礎において,ウェッブとホブソンら新自由主義者は同一の見地に立っており,主に独占と産業効率の点から公営事業と経済統制を主張したことが分かった。さらに,戦後再建へ向けての,中央集権的な行政機構の見直し作業の中で,ウェッブ夫妻とベバレッジは,非常に緊密な立場に立っていたことが明らかになった。なお,前年度に日本語で発表した論文を,イギリス人校正者の協力で英語論文に加筆修正し投稿を試みる作業を行った。現時点で,完成間近であり,来年度には他の研究会での発表と推敲を経て,公表する予定である。
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